2014年6月17日火曜日

撮影前の準備(リサーチ篇)


写真でも映像でも、撮影の計画を立てるということは「何を(被写体)」「いつ(時間)」「どこで(場所)」撮るのかを決めることに他なりません。もちろん細かく見ていくと、「どうやって(手法)」「何を使って(機材)」「どのように(演出)」…などいろいろな切り口がありますが、今回は基本になる「何を、いつ、どこで」の3つの視点から撮影前のリサーチについてまとめてみたいと思います。


何を(被写体)

写真や映像を撮る場合、一般的にはこの「何を(被写体)」が既に決まっていて、「だから写真や映像を撮る」とつながることがほとんどだと思います。「子供を撮る」「ペットを撮る」「旅先の風景を撮る」「電車を撮る」などなど。被写体が決まっていれば「いつ」や「どこで」でそれほど悩むこともありません。

しかし4Kタイムラプス映像の場合は、「何を」の部分が被写体ではなく「4K映像を」や「タイムラプス映像を」になっている人が多いのではないでしょうか。「とりあえず4Kタイムラプス映像を撮ってみたい。でも何(被写体)を撮るのかはまだ決めていない」という状態。もしあなたがそうであれば、まずは被写体=撮影する対象を探さなくてはなりません。

ご存じのように4K映像は面積比でFull HDの4倍の解像度を持っています。その分「従来よりも細かいところまで見える」という利点(場合によっては難点)があります。また、タイムラプス映像は「時間圧縮」という大きな特徴を持っています。そのため、普通の映像とはちょっと違う尺度で被写体を選ばなくてはなりません。もちろん習うより慣れろの精神でいろいろと試してみて「4Kタイムラプス向きの被写体」を見つけるのも楽しいのですが、何時間もかけて撮ったカットが軒並みNG!みたいなことが続くとさすがに軽く凹みます。なので、どんな被写体が向いていて何が向いていないのか、事前のリサーチでイメージを掴んでおくことが大切になります。

4Kタイムラプスに「向いている」被写体はYouTubeVimeoなどの動画サイトでいくらでも探せるので、ここでは撮影を不発に終わらせないためのヒントとして、これまでの残念な経験を基に「あまり向いていないもの」と「向いてはいるけど面倒なもの」をいくつか挙げてみます。


 【あまり向いていないもの】

  ・海や湖などの水面
  ・屋外の草や木
  ・画面を横切る人や乗り物
  ・車窓からの風景


タイムラプス映像の被写体選びの基本は「ゆっくり動くもの」を見つけること。例えば時計の針のように、時間を圧縮することで初めて動きが見えてくるような被写体が理想的です。なので逆に「普通の速度で動くもの」は邪魔になることが多々あります。

風を受けて不規則に揺れる水面や草木は、大抵の場合チラチラと動く目障りな存在にしかなりません。それどころか、細かく動くことでその部分がブレて見え、4Kならではの解像感もスポイルしてしまいます。例えば今回のサンプルムービの冒頭の3カット。それほど風は強くないのですが、水面の細かい波や草木の動きが邪魔なものに感じられます。

同様に、画面を横切る人や乗り物があるような場合も注意が必要です。風による揺れとは違って方向性のある連続した動きなので、カメラから離れていれば被写体として問題なく成立するのですが、これがカメラのすぐ目の前、2~3コマ程度でフレームを横切ってしまうような位置にある場合は、動きの連続性が薄くなる上に画面に占める面積が大きいため、人や車が突然現れていきなり消えるような唐突感だけが残ることになります。サンプルムービーの中では、雷門や昼間の浅草寺のカット。画面の奥に大きな目標物があるためにまだ救われていますが、それでもチラつく感じは否めません。

被写体との距離

車窓からの風景は速度が問題になります。1秒インターバルで撮影した素材を30Pで仕上げた場合、時間圧縮率は30倍。カメラを積んだ車両の移動速度をゆっくり目の30km/hとしても、仕上がりのスピードは900km/h。音速に近い速度で地上を疾走!と考えるとちょっと楽しそうですが、実際のところは余程条件に恵まれない限り、目まぐるしく変わる風景や小刻みな揺れのせいで、見ていて非常に疲れる映像になります。速度が遅くてカーブも揺れも少ない乗り物なら…ということで現在いろいろとテスト中ですが、それについては後日あらためてレポートしたいと思います。


 【向いているけど面倒なもの】

  ・動きのない物や風景
  ・群衆や車群
  ・星空


まるで動きのない物や風景でも、太陽の位置によって影が伸びたり、それすら無い場合でも被写体の代わりにカメラ自体を動かしたりすることで、静止画ではなく映像に見えるように撮影することは可能です。影の変化などはタイムラプスならではの表現ですし、カメラの移動も「4K動画が撮れないカメラで4K映像を作る」という意味ではひとつの正しい答えです。しかし、それらの撮影にはそれなりの時間や手間が掛かります。影の動きをしっかりと見せるには最低でも2~3時間の撮影が必要で、その間、雲が掛からずに太陽が出続けていてくれなくてはなりません。カメラ自体をゆっくりスムーズに動かすには専用のクレーンやドリー(台車)を用意する必要があります。もちろんそういった準備や試行錯誤も含めてタイムラプスの醍醐味ではあるのですが、最初のうちはもう少し動きのある被写体を選んだ方が無難です。

群衆や車群については、4K解像度になることで人間の顔や車のナンバープレートが従来よりもはっきりと識別できてしまうという問題を含んでいます。家族や仲間内だけで楽しむ映像であればそれほど神経質になる必要はありませんが、YouTubeなどを通じて不特定多数の方に公開する映像は、肖像権や個人情報などの法律上の解釈以前に、制作者のマナーとして顔やナンバーを識別できないように修正しておく必要があると考えます。顔認識などを使って全自動で修正を加えてくれるアプリケーションがあってもよさそうなものですが、とりあえず見当たらなかったので(あれば是非教えて下さい)今回のサンプルムービーでは全て手作業で修正を行いました。雷門、浅草寺、新宿、渋谷の各カットで、ひとコマづつ修正してはTIFFで書き出すという作業をおよそ1,200枚、丸2日がかりです。仕上がりの品質には何ら関係しない虚しい作業になるので、被写体選びの段階で回避できるのであればそれに越したことはありません。この“解像度が良すぎる問題” は、今後4Kや8Kが普及して行く過程で様々な手間やトラブルを生み出しそうな予感がします。

星空(星景)については、相応の機材と経験、撮影技術が必要です。撮影場所や日時の選定からノイズ対策、レンズの結露の予防など、「星景写真」をキーワードに検索をかけるとさまざまな情報が得られるので、まずは知識の習得から始めて下さい。既に知識と経験をお持ちの方は、その技術と手元の機材を活かして是非4Kタイムラプスにチャレンジしてみて下さい。


いつ(時間)

被写体さえ決まってしまえば、その時点で「いつ」「どこで」についてもある程度イメージが出来上がっていると思います。あとはそのイメージを実際の情報と照らし合わせて、撮影を行う具体的な時間と場所を決定します。場所の方が先に決まることもありますが、ここではまず「いつ」について考えてみます。

タイムラプス映像の撮影では、数分~数時間後にレンズの前で起こることを予測した上で、その予測に基づいてカメラをセットし、インターバルの秒数などから逆算した適切なタイミングで撮影を始めなくてはなりません。何かが起こり始めてからカメラを回しても大抵の場合は手遅れです。従って「いつ何が起こるのか」という事前のリサーチが非常に重要になってきます。

例えば日の出や日没、月の動きや影の動きを撮りたいのであれば、以下のようなサイトで時刻や位置の情報を入手して、それらの情報を基に「いつ」を決定します。


 
計算例


もちろん、自然だけでなく人工物についての情報も役に立ちます。例えば東京の夜景を撮影するなら、以下のような情報をチェックしておきます。



 
他にも、電車や船、飛行機などの運行時刻や、遊園地などの営業時間、霧や雲が晴れる時刻(過去の統計や天気図から推測)、撮影場所の制約(XX時以降立ち入り禁止)等々、撮影の内容に合った情報を事前に集め、それらに基づいて結果を予測しながらスケジュールを組めば、タイムラプス映像の撮影でありがちな「ずっと撮っているけど何も起こらない」や「撮影を止めた途端に面白い動きが」という情けない状況に陥る確率もぐっと減らせるのではないかと思います。


どこで(場所)

撮影場所については、端的に言ってしまうと「その場所で撮影できるのか?」というリサーチがメインになります。

これまでにも何度か書きましたが、ビルの展望台や景勝地では三脚の使用が禁止されている所が少なくありません。商業施設や美術館、博物館、歴史的建造物などでは撮影行為そのものを禁止にしている所もあります。三脚の使用や撮影行為が禁止されている背景には、主に以下のような理由が挙げられます。

  ・通行人や他の利用者の邪魔になる
   (展望台、商業施設、道路、公園など)

  ・建物や展示物に損傷を与える可能性がある
   (美術館、博物館、歴史的建造物など)

  ・著作権や肖像権を侵害する恐れがある
   (美術館、著名な建造物など)

  ・望遠レンズによる盗撮やのぞき行為の防止
   (一部のビルの展望室など)

  ・私有地のため
   (施設の敷地内など)

撮影しようとしている場所がこれらのいずれかに相当しそうな場合は、三脚やその他のカメラ固定器具の使用および撮影そのものの可否について、事前にしっかり調べておく必要があります。一例として、今回のサンプルムービーを撮影するにあたって、事前リサーチによって撮影を断念した場所を挙げておきます。三脚の使用は禁止でもポケット三脚等は使用可の所もありますが、今回は三脚禁止が判明した時点で撮影場所の候補から外しています。

  東京都庁(三脚禁止) ※ポケット三脚もNG
  文京シビックセンター(三脚禁止)
  六本木ヒルズ スカイデッキ(三脚禁止)
  聖路加ガーデン(三脚禁止)
  丸ビル(三脚禁止)
  アイ・リンクタウン(三脚禁止)
  お台場海浜公園(三脚禁止)
  貿易センタービル(インターバル撮影禁止)
  船の科学館(本館休館中)
  新宿NSビル(展望ロビー廃止)

また、リサーチによって撮影や三脚の使用は可でもカメラの設置が難しかったり希望通りの眺望が得られないことが判明する場合もあります。窓が遠くて映り込みが消せないとか、撮りたい方向に面していない、などなど。例えば今回は以下の4か所がそうでした。

  東京スカイツリー
  新宿野村ビル
  新宿センタービル
  キャロットタワー

撮影という行為は、多かれ少なかれ周囲に迷惑を及ぼします。特に三脚や一眼レフを使った(一般の人から見れば)大掛かりな撮影や、同じ場所に長時間居座ることになるインターバル撮影では、事前のリサーチによる場所や時間の選定をしっかりと行い、周囲への迷惑を最小限に留めるようにして下さい。
 
 

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